テーマのあるエンターテイメント小説
──『モダンタイムス』は漫画週刊誌「モーニング」という、小説としては珍しい媒体で連載をスタートしました。いま振り返ってみて、『モダンタイムス』とは、どのような位置づけにある作品なのですか。
伊坂 一言で言うと、とてもしんどくて、やりがいのある仕事でした。いくつもの“初めて”がある仕事でもありました。僕はそれまで、長編小説は書き下ろしか、連載にしても何ヵ月分も先行して書きためてから発表するスタイルをとっていたのですが、『モダンタイムス』は一話一話、締め切りごとに編集者とじっくり打ち合わせをして作っていきました。
普通、長編小説の物語の流れは、たぶん、冒頭のギアが一速で、そこから二速、三速と上げて、中盤からはほとんど五速で走っていくような気がするんですけど、『モダンタイムス』の場合は、毎章の書き出しから一速、二速、五速……とギアを変えて、そして次の章ではまた初めから一速、二速と加速を始める感じなんですよね。小さな山を毎回、登って行くような感じで、結果的に、小説がもっている雰囲気も、山を、いや迷路を全力で走り続けるようなものになったと思います。読みやすいのに、読むのにエネルギーを要する作品だ、と人に言われたこともありました。
特に「つかみ」と「引き」には気を遣ったんですよね。これがものすごく大変で。書いているときは、まさに全力疾走で、消耗しました。「モーニング」の担当編集者との打ち合わせも、連載漫画のように2週間に1回ぐらいやるんです。毎週やってくる締め切りを気にしながら、長編小説を書いたのは初めてのことでしたから、日帰り旅行を何十日も繰り返すような大変さでした。
書いているときは充実していたので、こんな仕事がまたしたいなと思う反面、あれだけ消耗する仕事はもうできないかもしれないとも思います。
──はじめて作品に「テーマ」を設けたと伺いました。
伊坂 『モダンタイムス』は、まず「社会を覆う巨大なシステム」について書く、というテーマを置いてから作品の肉付けをしていきました。システムの中でどうやって戦い、小さな幸せを
──「システム」がテーマと聞くと、難解な小説を想像してしまいますが?
伊坂 そのテーマをただの問い掛けに終わらせるのではなく、エンターテイメントの枠の中で面白く展開させたかったんです。自分としては、それを達成したと思っているんですけど、あんまりそうは言われなかったんですよね(笑)。でも、人から「『モダンタイムス』は伊坂さんの最高傑作なんじゃないですか?」って聞かれると、「そうなんですよ」とは思うんです。自画自賛ですけど、複雑なテーマを扱いながらも、単純に「面白いじゃん」と楽しめるような作品になったんじゃないかな、と。僕の小説は基本的に読みやすいと思いますが、それだけでは終わらない、奥行きが出せたと感じています。
──どのような状況で執筆を始められたのでしょうか。連載をスタートさせたころ、伊坂さんはどんなことを考えていたのでしょう?
伊坂 『モダンタイムス』の連載がスタートしたのは2007年4月です。その直前の2006年後半には、『ゴールデンスランバー』(新潮文庫)を書き始めていたので、当時は2本の長編を同時進行で書いていたことになります。
今でも覚えてるんですけど、その二つの執筆に入る前に、1ヵ月間、原稿をまったく書かない月を
──この2作を、伊坂さんは「双子の兄弟」に例えています。しかし読者からすると、まったく違うテイストの作品にみえるのですが。
伊坂 『ゴールデンスランバー』は、それまでの伊坂幸太郎を否定するような、ハリウッド映画のようなストレートなエンターテイメント作品にしよう、と意識して書きました。
そもそも、僕は、どこかオフビートな、変な映画のほうにシンパシーを覚えていたので、ハリウッド映画っぽいものは書くつもりがなかったんですけど、でも、あえてやってみようかな、と。一方、『モダンタイムス』は漫画の編集者という伴走者と一緒に、新しい自分、でも自分らしい自分ということを意識して書いていったんですね。当時、書ける長編の要素は、この2冊に全部込めたつもりで、だから、その後には何を書いてもこの2冊と同じになっちゃう気がしたので、それで、『あるキング』を書いたりしたんですけど。
ところがいざ発表してみると、『ゴールデンスランバー』は「これぞまさに伊坂作品! 超
じゃあ、もう気にしてもしょうがないや、と思ったのは、その頃です。たしかに、『ゴールデンスランバー』は読んでいくとパズルのピースがカチカチと



